開講・開催通知

ナノ材料を開発する上で知りたいデンプンの科学 [12月9日(金)福岡工業大学]

2016/10/24

【科目種別】電気エネルギー講座Ⅰ(日本語科目)

■講 師: 奥西 智哉
■ご所属: 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門

■演 題: ナノ材料を開発する上で知りたいデンプンの科学

■日 時: 平成 28 年 12 月 9 日(金)14:40~16:10
■場 所: 福岡工業大学 A棟6階 電気工学専攻大学院ゼミ室
      http://www.fit.ac.jp/shisetsu/campus/map/index

■主 催: 福岡工業大学
■共 催: 九州パワーアカデミー
■申込/お問合せ: 福岡工業大学大学院事務室 master[at]fit.ac.jp

■概要
 炭素は非金属元素ではあるが、いくつかの同素体があるがグラファイトなど通電性を持つものもある。単体の単離方法はいたって簡単で、有機物を不完全燃焼させればよい。また、生物は有機物から成るが、これら炭水化物、タンパク質あるいは脂質はその基本構造として炭素骨格を持つ。例えば、人体の乾燥重量の2/3を炭素が占める。
 これら有機物は、生物循環としてまず植物が光のエネルギーを用いて吸収した二酸化炭素から炭素を固定するカルヴィン回路によりデンプンを生合成し、植物組織を形成する。次に植物は動物に食べられて炭素が移動し、動物の呼吸によって一部が排出される。最後に枯れた植物体や動物の死体はバクテリア等の消化により大気中に二酸化炭素として放出される。
 無機物もこれらのサイクルとは無関係ではなく、石灰岩等の炭酸塩はサンゴ礁形成の生物活動がその発端であるし、石炭・石油・天然ガス等の埋蔵化石燃料(これらは有機物であるが)は死後分解されなかった植物体あるいは動物がその起源である。最終的には分解あるいは燃焼して利用され炭素が二酸化炭素として炭素循環にもどる。
 このようにすべての炭素は光合成によるデンプン合成経路を通過するといっても過言ではない。デンプン(澱粉、starch)は、多数のα-グルコース分子がα1,4-グリコシド結合によって重合した天然高分子である。構成単位であるグルコースとは異なり水に不溶である。デンプンはその構造によってアミロースとアミロペクチンに分けられる。アミロースは直鎖状の分子で、分子量が比較的小さくDP 5,000程度である。一方、アミロペクチンは枝分かれの多い分子で、分子量が比較的大きくDP 100,000程度である。デンプンの中には両者が共存しており、アミロペクチンは平均でグルコース残基約25個に1個の割合でα1,6-結合による分枝構造をもつ。
 α-グルコース分子が直鎖状に重合している部分は、水素結合によりα-グルコース残基6個で約1巻きのラセン構造となっている。また、ラセン構造同士も相互に水素結合を介して平行に並び、結晶構造をとり、水の存在下で加熱した時に起こるゲル状への相変化(糊化(こか))の起こりやすさに関係している。デンプン粒子中のアミロペクチンは結晶性のクラスター構造をとっており、アミロースはその間隙に非結晶状態で整然と配列されている。加熱水中では小さい分子量のアミロースの溶解がおき、アミロペクチンのクラスター中に水分子が侵入する。最終的にアミロペクチン全体が吸水・膨潤するが、これをデンプンの溶解(膨潤)と呼ぶ。現象としては、デンプン懸濁液が、加熱によって次第に粘稠性を示し、透明な糊液となります。この溶解は吸熱反応で、吸熱が始まりでんぷん粒子が膨潤し始める温度を糊化開始温度と呼ぶ。
 デンプンの利用は多岐にわたり、天然高分子としてゲル化したものを増粘剤、保水材、結着剤として主に食品製造に用いられる。これらは加工澱粉のように化学的処理を施すことでその特性を調整・強化する場合もある。あるいは食品の発酵原料としてアミノ酸が生成されるほか、主にアルコール醸造(蒸留酒)原料として、米:日本酒(焼酎)、麦:ビール(ウイスキー)がデンプン素材として使われる。近年では、トウモロコシやサトウキビなどを原料としたアルコールがバイオマスエタノールとして化石燃料の代替として注目されているが、食料供給との関係が問題点のひとつとして挙げられる。
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